押谷芽衣の演じる小公女
　〜映画『リトル・プリンセス』〜

　『小公女』と言えば世界名作劇場で活躍した白い肌、黒い髪、青い瞳の少女を思い起こすかもしれない。島本須美の透明な声も印象的だった。またはシャーリー・テンプル主演の1939年版『THE LITTLE PRINCESS』を思い出すマニアックな方もいるかもしれない。
　原作はフランシス・ホゾソン・バーネット。イギリス出身で後に合衆国テネシー州に移住した。バーネットの小説はこの移住の体験が大きく影響したと言われている。本作『リトル・プリンセス』の元になった『小公女』は1911年に書き上げられ、インドからニューヨークへ移り住む少女が描かれている。他の代表作『秘密の花園』『小公子』も主人公は何らかの住む地の変化が物語の中核にある。

　映画『リトル・プリンセス』はとても丁寧な作品である。御伽話を具現化する上で重要な世界観を大事にしている。アルフォンソ・クアロン監督は本作で初めて米国デビューを果たしたにもかかわらずその演出は堂々たるものだ（それに緑色が大好きだ(笑)）。日本で公開された作品は少ないが『大いなる遺産 』のヒットは記憶に新しい。そして『リトル・プリンセス』の世界観に大きく貢献したのが美術のボー・ウェルチと衣装のジュティアナ・マコフスキーである。ウェルチは『カラー・パープル』や『ロスト・ボーイ』でリアリティ在る世界を作り出し、後にティム・バートンと組み『シザー・ハンズ』『バットマン・リターンズ』の幻想的な美術で絶賛された。劇中印象的だったセーラが窓から降り込む雪の中で舞う幻想的なシーンは正しくウェルチの功績であろう。マコフスキーはクラシックの衣装で映画・演劇・ＴＶ等幅広く活躍している。これら美術・衣装がクアロン監督の趣味により緑色に統一されておりとても美しい。これだけでも『リトル・プリンセス』は一見の価値があるだろう。特に親子で観るに最適な映画だとお薦めしておく。（劇中挿入されるＣＧシーンの安っぽさも今となればなかなか味があって宜しい…かもしれない）

　…と前置きが長くなったが最大の魅力は日本語吹替え版にある。主人公セーラ・クルーの声を押谷芽衣が演じているのだ。『ユンカース・カム・ヒア』の次の仕事であると思われるが、ちょっぴり成長した「ひろみ」を思わせる演技に『ユンカース』を知る者としては入れ込んで観てしまうしかない。ちなみにセーラは10歳だから「成長した」というと語弊があるのだが…。
　何といっても芯のしっかりした女の子。これが押谷芽衣にピッタリだ。セーラは自分の気持ちに正直に行動する。寄宿学校での最高権力者ミンチン先生が相手でも一歩も退かない。父親が戦場で亡くなったと知らせを受けた後、寄宿舎の屋根裏部屋と追いやられるが、それでも不屈の精神で立ち向かって行く。オーディションにより１万人もの中から選ばれたリーセル・マシューズの演技も達者なものだ。しかし、ひろみちゃんの声で訴えられるとどうも弱いのよね。文無しでみすぼらしい身なりのセーラにミンチン先生は「まだ自分はお姫様だなんて言い張るつもり？」「鏡でも見たらどう？」と問い詰める（沢田敏子の声がこれまたハマリ役）。押谷芽衣のセーラも負けてない。凛として「私はお姫様よ」「女の子は皆そうだわ」「女の子はお姫様なのよ」と応じる。まるで押谷が演じる事を見越したかの様な出来である。原作を脚色するに当たり現代的な少女へとアレンジされてこともプラスに作用していると思う。芯の強さ、心の優しさ、自尊心の高さ、そういった「小公女」の持つ印象は吹替え版でも見事に伝わってくる。押谷芽衣の数少ない主役の一つだ。『ユンカース』ファンの皆さんへは何をさて置き是非一度吹替え版を観て欲しいと思っている。

　本作のＤＶＤはハリウッドプライスで有名なワーナー・ホーム・ビデオから発売中だ。今ならＤＶＤ２本で三千円というとっても羨ましい価格でキャンペーン中である。まあこのカカクには文句もあるのだが（サントラＣＤより安いってそんなんでいいのか？）人に薦め易いお値段であるのでココではこれ以上何も言わないでおこう。だがしかし、パッケージには「細谷芽衣」と（吹替えとはいえ）役者の名前を間違えるという致命的な間違いを犯している。気付いたらとっとと修正して欲しいものだ。

2002.1.11 濱田信一

『リトル・プリンセス』(原題 A LITTLE PRINCESS)／1995年日本公開／ビスタ／ドルビーデジタル／原作：フランシス・ホジスン・バーネット／監督：アルフォンソ・クアロン／出演：リーセル・マシューズ（押谷芽衣）　リーアム・カニンガム（大塚芳忠）　エレノア・ブロン（沢田敏子）／ワーナー・ホーム・ビデオより発売中