『ユンカース・カム・ヒア』の脚本を担当なさった布勢博一さんの最新作完成。
「視力を持たない立場でなければ分らないことがある。それを自分の仕事に生かしたい」
と考えて、この作品の脚本を書こうと決めた。
（※『ユンカース』のブックレット取材時のお話し）
『夢 追いかけて』
原作：河合純一／監督：花堂純次／脚本：布勢博一
詳しくはオフィシャルサイトへ…http://www.groove.or.jp/movies/yume/
潤沢な予算で撮った映画だとは言えないし、観客を驚かすようなスペクタクル場面は一つもないが、丁寧に作り込まれた、情熱あふれる作品となっている。中学時代の担任を演じた三浦友和、主人公の母役の田中好子、水泳コーチの船越英一郎、みな好演だ。中学〜高校時代の主人公を演った勝地涼も存在感がある。何より、全盲という障害を持ちながら普通中学の教師になり、パラリンピックで何度も優秀な成績を挙げた河合純一氏本人が主人公として出演しているインパクトは、何物にも代え難い。
実話に基づいたストーリーで、しかも実在の人物が主人公として登場するという、かなり危うい企画なのだが、河合氏の型破りとも言える存在感がすべてを圧倒しており、見終わった後には「これしかないよなぁ」と納得させられる。濱田氏の言に従うなら「主人公が奇跡を実現する点で『ユンカース』と共通する部分が大きい作品」であるし、私の言い方なら「ユンカースが出てこない『ユンカース』」ということになる。
ストーリー全体がラストに向けてきれいに収束していく様子は、『ユンカース』の脚本の初稿と共通するテイストがある。『ユンカース』を撮るにあたって、佐藤順一監督は美しいラストを壊し、敢えて未解決な部分を残すことによって、作品に独特な苦さをもたらした。それが大きな魅力になっているのだ。しかし、布勢氏本来の持ち味は『夢 追いかけて』のようなスッキリしたラストにあるのだろう。初稿のまま撮られていたら『ユンカース』がどんな映画になっていたのか、本作を観て有力な材料を得たように思う。
こういう映画を観るたびに、ドルビーサラウンドとか『ハリー・ポッター』って何なんだろう？と考えてしまう。世界的な人気スターや立体音響やＣＧがなくても、ちゃんと観客に感銘を与える映画を作れるではないか。映画というのは、これでいいんだ！ そうじゃないか？
これから自分の将来を考える若い人、そして現に障害を背負っている人に、ぜひ観てもらいたい。希望とは何か、そして住みやすい世の中を作るにはどうしたら良いかを考える上で、またとない材料を得られるはずだ。主人公の河合氏と布勢氏は全盲という立場を共有しながら、ポジティヴな考え方を捨てなかった。二人が互いのベクトルを重ねあった成果が、この映画に表れている。
掲示板より抜粋 文：佐藤良平 (03/02/21) |
丁寧な言葉で綴られる物語が涙を誘う。優しい言葉が人を傷つけ、厳しい言葉が人を育てる。布勢氏の脚本はいつも言葉の重さを再確認させてくれる。『ユンカース・カム・ヒア』においても、楽しいはずの会話に陰る寂しさなどが丁寧に描かれた。その持ち味は『夢 追いかけて』からも十分伝わってくる。決して大作ではないが観るべき一本だろう。
布勢博一氏には『ユンカース・カム・ヒア』の取材でお会いしたのだが、お目が不自由にもかかわらず次回作（『夢 追いかけて』）に掛ける想いを熱く語っていたのが印象的だった。とてもポジティヴな考え方をしており、私もとても元気付けられた。事実『ユンカース』がＤＶＤ化されたあとも上映活動を続けようと思ったのも布勢氏の考え方が影響している。
また、花堂監督の緩急ある演出も良い。キャストも好演が印象的だし、主人公を河合純一氏本人が演じ存在感がある。素人風なところもあるけれどあの存在感には代え難いだろう。
恥ずかしいのであまり書きたくはないが、実はちょっぴり涙してしまった。これがまた気持ちいい涙なのだ。嬉しいことに各地で公開されるようなので、ぜひ映画館へ足を運んでみよう。
文：濱田信一 |