*DVD北米版

レヴュー：
米国盤DVD『JUNKERS COME HERE』

JUNKERS COME HERE
BANDAI ENTERTAINMENT
ISBN:1-58354-952-8

DVDビデオ
片面・２層ディスク
リージョン１（アメリカ国内向け）
トールケース入（黒色アマレーケース）
2003年8月発売
メーカー希望小売価格：$29.98

本篇：
105分
カラー
１６：９　スクィーズ収録
英語字幕付（ON／OFF可）
日本語音声・英語音声付（各ドルビーデジタル2.0ch／ドルビーサラウンド音声）

　映画『ユンカース・カム・ヒア』の英語版が制作され、このたびDVDの形でお目見えしたので紹介する。この米国盤DVDはリージョンコードが１の商品であり、日本国内で販売されている機器では原則として再生できないので注意していただきたい。筆者はリージョンフリーのDVDプレーヤを使って鑑賞した。

●画質など
　本篇・予告・パイロットフィルムの映像はオリジナル日本版とまったく同じ長さで、ヴァージョンや編集の違いは一切ない。
　本稿を書くにあたって日本盤と米国盤を並行して再生し、切換えながら比較してみた。色調や明暗などは、ほとんど差がない。本篇・予告・パイロットフィルムとも、日本盤DVDのために立ち上げた素材をそのまま米国盤に流用したと考えて間違いないだろう。タイトル画面や予告篇には映倫マークが残っていた。筆者は『魔女の宅急便』の米国盤LDを観て驚愕した経験がある（淡い桃色が、目の覚めるようなショッキング・ピンクに変換されていた）ので、今回も不安がないわけではなかったが、幸いなことに杞憂で済んだ。　もちろん、素材は同じでもオーサリングの工程が日本盤と異なるため、最終的にディスプレイに表示される画質には若干の差がある。日本盤より収録内容が増えたせいか、米国盤では転送レートがかなり低くなった。とは言っても、観ていて決定的な不満を感じるほどではなく、実用上は大きな問題がないと考えてよい。よく出来ている。
　マニアの方には、本篇中の何ヶ所かでスダレ状のノイズが盛大に出ることを覚えておいていただきたい。しかし、これはDVDというフォーマットが抱えている根本的な欠陥のせいだから、ある程度までは我慢するしかない。最近とみに性格が丸くなったせいか、この程度のことで全品交換してくれだの企業姿勢が良くないだのと大騒ぎする意欲が湧いてこなくなった筆者である。いいじゃないの、少なくともVHSよりはるかにマシなんだから。値段も安いんだしさ。どうしてもノイズがイヤだという人は、まず文句の付けようがないほど優秀な出来の日本盤DVDを買って下さい。さすがに値段だけのことはあります。

●メニュー画面など
　各種メニューのうち７枚は動画や音声が付いており、本篇のBGMが流れる。操作性は普通と快適の中間ぐらい。日本盤のメニューは静止画のみで音声が付かないため、米国盤に比べると淋しい。また、ここで書いても仕方ないことだが、日本盤のメニューは文字が小さすぎて読みづらいと思う。これは当初、4:3と16:9各々のディスプレイに対応するため、メニュー画面を二通り付けるプランがあった名残りではなかろうか。
　本篇ラストのクレジットは日本公開時のものがそのまま流れ、その後に英語訳のクレジット（音声なし）が加えられた。それとは別に、米国盤DVD制作スタッフのクレジットが静止画で収録されている。

●吹替え・英語字幕
　米国盤で最も心配なファクターが吹替えだったのだが、予想していたよりもはるかに健闘していたので安堵した。総じてオリジナルの日本語版を尊重した仕上がりで、全篇を通じて大きな違和感を覚えずに済んだ。キャストも日本語版のイメージに近い役者を意識的に選んだ跡が窺われる。
　モノローグにエコーをかけて強調したり、空間が狭い場面で同様にエコーを加えたりするなどの処置は散見されるが、原語版のニュアンスを大きく損うものではない。英語版でしばしば見られる改悪だが、オフ扱い（画面の外にいる登場人物に喋らせる）や、キャラが後ろ向きの時を狙って（口パクが不要なので）ここぞとばかりに説明調のセリフを加えるといった姑息な操作は皆無に近かった。繰り返すけど『魔女宅』の英語版はひどかったんだよ、ほんとに。
　ダイアローグ以外の音素材（サウンド・エフェクトとミュージック・エフェクト）は、斯波重治氏が制作したオリジナルの日本版を流用してある。そのせいか、英語版音声の演出プランも自然と日本語版に準じたものになったようだ。
　音楽はBGM・挿入歌・エンドテーマともすべて原曲を使っており、いっさい差替えられてない。ただし、著作権の関係で問題が起きるのを回避する狙いだろうか、文江さんが料理しながら歌う「枯葉」は、残念ながら米国盤では聞かれない。
　英語字幕と吹替えを比較するとかなり言い回しが違うが、これは当り前であって、気に病むようなことではない。字幕・吹替えとも充分に神経を遣って作られているので、作品のファンとして感謝したい。面白いのは挿入歌とエンドテーマの歌詞が英訳と同時に日本語（ローマ字）でも表示される点だ。このような措置は『新世紀エヴァンゲリオン』英語版LDの頃から行われていた。本作品の場合は歌にセリフがかぶる箇所が多いので、その際には字幕が三段に表示されるため、画面がたいへん賑やかになる。色分けすることで何とか区別しているが、いささか読みにくくなっているのは致し方ない。

●映像特典
１）予告篇
　日本公開時に制作された予告篇。日本盤DVDに収録済で、米国盤にも収録されたが音声は日本語のみ。英語字幕を選択できる。

２）パイロットフィルム
　これも日本盤DVDに収録済。どういう性格のフィルムなのかは、日本盤DVDの解説をご覧ください。音声は日本語のみで、英語字幕を選択できる。

３）商品告知
　『ユンカース』以外に米国で発売されるアニメDVDの予告３本を収録。多分『鎧伝サムライトルーパー』『星界の紋章２』『.hack/SIGN』だと思うが、正直に言って自信がない。

４）アートギャラリー
　静止画20点。本篇スチル、ユンカース表情集、ユンカースキャラ原案を収録。量・狙いとも中途半端で物足りない。筆者が制作にタッチしていたら却下したに違いない代物。

５）インタヴュー
　佐藤順一監督と木根尚登氏へのインタヴューを静止画テキストで収録。これらは劇場用パンフレットに掲載された記事を英訳したもので、このDVDのため新規に談話を取ったわけではない。

●ディスク
　米国盤ディスクの印刷面は、ベビーブルー＋黒＋白の３色（地味な色遣いなので、ちょっと見には２色に見える）で刷られている。イラストの絵柄は、大橋学氏の労作である飛行シーンを本篇から抜き出してある。米国盤の印刷は日本盤の刷り色であるピンク＋白と対照的だ。
　チャプターの区分けは、新たに付された英語版クレジットの部分を除いて、数・設定箇所とも日本盤と同一になっていた。0層から1層への切換えポイントは、チャプター6の終点（ディスプレイの表示で66分35秒）に設定されている。ちなみに、日本盤では米国盤より少し手前、65分18秒で切換えが行われる。

●印刷物
　総カラーの二ッ折リーフをケースに封入。内容は木根氏からのメッセージと、作品のスタッフ・キャストのリストからなる。前者は日本盤DVDのブックレットに掲載されたものの英訳だ。後者は一切省略なしの完全版で、英語版音声の制作スタッフも含まれている。
　この他に、これも総カラーの二ッ折商品告知リーフが入っていた。ちょうど「ちびBEATマガジン」の英語版みたいな体裁だ。『JUNKERS COME HERE』米国盤DVDの情報も掲載されている。

●まとめ
　日本盤DVDの制作に携わった者として、米国盤を薦めるのは心苦しいものがある。しかし、出来は決して悪くないので、どっちでもお好きな方を選べば良いと思う。ただし、冒頭にも書いた通り、米国盤の再生にはリージョン１に対応した機種が必備なので注意すること。日本盤DVDは今でもバンダイビジュアルから絶賛発売中です。筆者が渾身の力を込めて執筆した特製ブックレット、およびサントラ盤CDは日本盤にしか付いてきません。
　筆者としては一人でも多くの方にこの作品を観て欲しいので、ここで紹介した米国盤と同じくらいの価格で日本盤を買える状況が理想的だと思う。ということで、まずは初回盤の完売を目指すべきなんだろうな。バンダイ様、拡販よろしくお願いいたします。
　米国盤の作りを見ていて面白いのは、この作品が大人向けなのか、それとも子供向けなのか、あちらのスタッフが戸惑っている様子が読み取れることだ。メニューの体裁などを見ると子供を意識しているのだが、監督や木根氏のインタヴューは明らかに大人向けの内容であり、結果として統一感のないパッケージングになったようだ。この作品自体の成り立ちが大人向けでもあり子供向けでもあるので、それが正直に反映されたとも言える。
　個人的には、今回のDVD発売をキッカケに米国で火がつき、その評価が逆輸入されて日本国内で再発見されるようにならないものかと期待している。実際、日本語では今まで一度も書かれたことがない至極まっとうなレヴューがウェブ上ですでに何本も発表されているのを見ると、彼我の間にある格差を感じずにはおれない。さて、何枚ぐらい売れるのだろうか？　日本盤よりも数が出たら、正直あんまり愉快ではない。
　このレヴューを書くにあたって米国盤を軽くチェックしようと見始めたのだが、結局ラストまで観てしまった。通しで観るのは久しぶりだったせいもあってか、途中で再生を止めることができなかった。今更ながら、傑作だとの思いを新たにした次第だ。

　　文：佐藤良平

(2003.8.25)