＊1998年に始めた上映活動とそれに関連する記録を書いて行きます。


002.記録を掘り出す（その３）2002/04/08(Sun)

　下高井戸シネマに声を掛けたのは丁度北野武監督の『HANA-BI』上映中でした。お客が入っている割に詰らん映画で、かなり退屈した記憶があります。何よりあの安っぽい監督本人の絵は駄目でしょう。才能はあるんだけど、映画を支える程じゃないと思いました。絵の完成度は高い、でも心象を伝える力は無い…。まあいいんだけど。それでもって映画が終ったあと片付けをしていた支配人に声を掛けました。

　あの〜一つ上映して欲しい映画がありまして…。ご検討いただけないでしょうか…。・・・・・・・・・・・（以下映画の説明）

　ああ、あの映画ね。いやぁ一度上映したんだけど、ぜんぜんお客が入らなくてね。

　聞くところによると毎日映画コンクールでの受賞を受けて1996年春に二週間行われた上映はサンザンだったらしい。初日こそゲストに支えられたけど、あとは全然駄目。確かに私が観た最終日も対象年齢から外れたガキンチョが走り回っていたし、それを入れても疎らな感じでした。当時でも無名に近い状況だったのに予定していた宣伝支援が得られず大赤字…これでは再上映は難しい…そう思われても仕方無いでしょう。でも、とりあえず夏休みにはモーニングショウでアニメを特集しているので検討してみましょう、と返事を頂きました。

　良し！一歩前進。

　それから一ヶ月弱、そろそろスケジュールが決り始めた頃、下高井戸シネマより連絡がありました。

　一本、モーニングショウのスケジュールに穴がありまして『ユンカース』上映しようと考えているんですが…

　えっ本当ですか？やります。やります。お願いします！

　というわけで、いきなり仮決定しっちゃったんです、ただこの時は通常の映画館での上映でした。まだ全然「自主上映」なんかじゃなく、単に映画館に対してリクエストが通っただけだったんです。さてここからが苦難の始り。配給権や上映権や予算や色々な問題が噴出、友人らを巻き込みながら、出来る最善の策は何か？、と頭を捻る日々が始ったのです。

　まず何処が配給権を持っているのか？　こっちは映画ファンではあるけれど、業界の事についてはトーシローです。最初はバンダイビジュアルの窓口に電話して教えて貰ったのかな。丁寧に教えていただいた記憶があります。…で、どこが持っていたかというと、制作会社トライアングルスタッフだったんです。私はてっきり配給会社だと思っていたわけで、先方がアニメスタジオだとは夢にも思いませんでした。

　普通の上映を予定してましたから、下高井戸シネマの方で契約をしてもらえる手筈でした。しかし、先方は「映画館での上映は対象になっておりません」みたいな感じでした。それに配給権が８月で切れるとかで、あまり上映に乗り気では無いようです。困った…。映画館で上映出来ない？…それがどういう意味かもちょっと悩みました。なるほど配給といっても映画館だけでなく、ホールなどでのイベント上映もあるわけで、配給権というのはその「権利」の形式により色々あるんだと一つ勉強になったわけです。

　さて、どうしよう…。

　そこで下高井戸シネマ側から提案…というか悪魔の囁きが。「自主上映ってのはどうだ？」「こっちは小屋を貸す、宣伝等は君らがやる」「これなら問題ないだろう」と。なるほど、いやぁ参りました。とりあえず宣伝費や場所代やらざっと経費を聞いたんですが、貧乏なヨーロッパ旅行が出来るくらいなわけで、一瞬に退きましたね。ただ丁度私はフィンランド旅行に一、二年のうちに行こうと決めていて小金を貯めていたんです。（※この旅行は現在に至るも実現出来ず。ユーロになる前に行きたかったのに…。それどころかここ３年、田舎にも帰れないほど貧乏になっちゃったわけで、森と湖の《スオミ》の地へ行けるのはいつの日か…。待ってろヘルシンキとムーミン）で、今やらないともう二度と観ることが出来なくなるんじゃないかという思い込みもあって承諾しちゃったんですね、これが。配給権の行方も心配だったし、今より状況が悪くなる可能性もあったわけです。

　でも、これで上手く行く、、、という確信めいたものが頭を過りました。

　しかし、フィルムを借りるにはプリント料なるものが発生します。フィルムの運搬費等の必要経費から、フィルムの劣化に対する保証など。「プリント料」という呼び方は劣化したらフィルムを新しく焼かないといけないところから来ているんでしょうね。

　で突然「企画発起人」となってしまって、時間もありません。いきなり交渉です。

　お幾らですか？

　Ｘ万です。

　（うわ高い！）値段に交渉の余地はありますか？

　他に提示している金額ですので大きくは変えられないと思います。

　そうですか…。（ま、仕方ないか…）

　さて、ここで大きな思い違いがありました。私はモーニングショウのつもりでしたから、朝１０時から１週間７回上映するつもりでした。しかしこの「Ｘ万」とうのはイベント等で一回こっきり上映する値段だったのです。蒼褪めましたね。Ｘ万×７回…。年二回のボーナス足しても足りないじゃん（お前のボーナス少なすぎ、というツッコミは無しよ）。

　いや、実はここで一度頓挫したんです。さすがに払えません。なんか不条理なものを感じたりしましたけど、素人だし現実はこんなものかもしれないとも考えました。下高井戸シネマのオーナーは「時間が見方してくれる」とか落ち込んでいた我々（私かな、真面目に落ち込んでましたから）を慰めてくれたりもしました。

　いろいろ考えて諦めがついた頃、再度、下高井戸シネマより電話があったんです。

　あの穴の空いた週はモーニングショウは休みにしますから一日だけでも上映してみますか？

　！！！？

　ここまで来たら何を悩む必要があろうか、もう上映するしかないじゃん。多分赤字になるだろうが、そういう問題じゃない。美談ぽいけど、単純に『ユンカース』が観たい。２０人くらいは集められるだろうし、観たがっている人なら絶対喜んでくれる筈だ。貸し切り気分で楽しんじゃえ。

　さっそく、トライアングルスタッフと契約。映画館とも日時を決め、記念すべき１９９８年８月８日土曜日の朝１０時に二年ぶりの『ユンカース・カム・ヒア』上映が決定したわけです。

　…こうやってスタートした自主上映は当然のことながら無名の映画の宣伝という困難なも道のりを歩み始めました。あの上映会の日、１２４席の劇場に２００名以上が押し寄せた嬉しい悲鳴は全く予想外だったのです。あのニフティでの事件、そして新聞の取材、怒濤の問い合わせ（ご苦労さまでした＞劇場のバイトのお嬢さん方）、これらがなければ上映活動は続かなかったでしょう。

　詳しいことは次回…。

−−−

ニフティより当時の記録（というか、書いた内容含んでるやん…。今度からはそのまま使おう）

　※この時点ではトライアングルスタッフ側とうまく交渉が出来ませんでしたが、その後の上映ではパンフレット等の物販品を映画館まで無償で届けてくれたり、良い関係が続いていました。今でも元社員Ｏさんにはお世話になっています。

−−−−

00149/00149 PXI07313 HAMADA Shinichi 今回の経緯
( 1) 98/07/12 01:50

　読み返すと変な話しである。こんな変な話しがあるのか。確かにコミ
ュニケーションの問題もあったのだが、これは…。ただ、ここに書かれ
ている事と似た様な事があったのは確かです。

　　　　　　　　　　　　　＊　＊　＊

　一度、頓挫し、また浮上したかと思えば、頓挫する。繰り返し。

　最初は一回のみの上映を考えていました。ネットワークを利用して、
まずは目利きな方に『ユンカース　カム　ヒア』を知ってもらう事が大
事だと。欲を出し、どうせなら『ユンカース』の舞台である世田谷線で
やりたい。そこからスタートしました。４月の事です。

　劇場とは６月になり正式に話しを始めました。

　その時の話しでは、過去に例があるので不可能は無いのではないか。
しかし、２年前の上映は事実上失敗しており、劇場経費を考えると１回
のみ個人で貸し切る方向が現実的である。私の当初の予定とほぼ合致し、
問題は日曜のレイト時間しか今は空いていないという事でした。これは
子供向けの作品でもあり興味のある地元のお子さんにも足を運んでもら
うつもりだったので、少し時間を頂いて返事をする事にしました。

　後日、８月に『フル・モンティ』の上映があるが予定していたモーニ
ング作品が１５日以降しか借りられず８日〜１４日まで午前中が空いて
います。もし、よろしければその時間でやりませんか、と電話を頂きま
した。願ってもない。しかも、傑作『フル・モンティ』が併映であれば
収益的にも宣伝的に助かります。

　上映に当たっては、まずフィルムのプリント料を私が持ち、広告は是
非、私（達）にやらせて下さい。その為にもまずフィルムが空いていて
幾らで借りられるか確認して欲しい旨を伝えました。

　数日後、第１回目の頓挫を迎えます。配給元のトライアングル・スタ
ッフから、『ユンカース』の配給権は８月一杯まででバンダイの意向も
ありお貸し出来ない、と返事を貰いました。ここで私は諦めたのです。
諦めには自信がありますから（洒落になってないぞ）。

　またまた数日後、劇場から電話を頂き、無理との事だったんですが配
給権があるわけですし貸せない理由もないでしょう。もう少し話しをし
ませんか、との事。時を同じくして、某友人にお願いしたバンダイへの
アプローチで「バンダイの意向」とは存在しない、または「個人の意向」
ではないかという情報が入って来ました。望みあり。

　この時点で、劇場側に配給元と再度お話しをしてもらい新しい事実が
出てきました。トライアングルは劇場への配給権を持っておらず劇場へ
はお貸し出来ない（主に公民館、学校等を相手に配給している）。また
イベント等、派手な事はダメです。（疑問：２年前、下高井戸で上映し
た時はイベントもしたし、当時ヘラルド系列である劇場を使用したでは
ないか）。ついでにこの時、プリント料はＡ万円だと聞きました。劇場
側もその値段に、吹っかけられましたねと苦笑い。

　では、非劇場なら構わない。私が、劇場の上映枠を買い、フィルム代
も持つ。劇場からは劇場使用料を驚く値段で貸して頂き、もう私は舞い
上がる気持ちでした。それでも当初予算の３倍でしたので、即答せずに
翌日返答する事にしました。私の財布では足りず以前『ユンカース』を
一緒に観た会社の同僚に頼んだのです。それは、快くＯＫ．。あの作品
が観られるのであれば多少（では、ないと思うが）なりとも協力したい。
ありがたや。

　翌日午後、３時くらいだったか決心を決め劇場に返事をする。出来れ
ば、やらせて頂きたい。

　それから、次の挫折を味わう事になるのです。劇場とのやりとりの後、
最終的なプリント料の取り決めを直接、配給元と行う。あくまで私個人
の問題なので。担当と連絡を取る。「…私、個人でなら貸して頂けるそ
うで連絡をしました。プリント料の事をお尋ねしたいのですが…」「Ａ
万です」（なんとなく不安に思い）「一週間の値段ですよね？」「いえ、
１回です」「１回ですか？」「そうです」「交渉の余地はあるのでしょ
うか」「ご予算は幾らでしょうか」「いえ、てっきり一週間Ａ万だと思
っていたもので」「ダメですね。予算はどれくらいでしょう」「正直、
こういう作品ですしＡ＋万くらいを考えていました」「全然、ダメです。
あまり動いてない作品とはいえ他に提示している値段がありますから」
………（交渉決裂）

　劇場に返事をする。１回上映でＡ万と言われました。えぇーーー？。
そりゃ絶句ものです。お互い。私は一週間７回上映する予定でしたから
Ａ＊７万です。当初予算の６倍。先に断って置きますが、営利目的の上
映ではありません。最初から２５％くらいの赤字を見込んでいました。
それでも、それくらいなら次回、次々回と続けるつもりになります。少
しずつ、作品の評判を呼び、こういう作品があるとの事をアニメ界、映
画界に提示したかったのです。野心？そんなわけはありません。私はそ
れでなくても口下手で、人前で何かをする人間ではありません。それこ
そ適材する方が業界にいていいのです。そうすれば、私は観客。楽でき
ます。おっと脱線。

　正直迷いました。私の同僚は自棄気味に「出す！。いや、躊躇はする
が」とまで言いましたが…それは回収出来ない。夜、散歩がてら下高井
戸に行く。元ネット友人の某氏と合流し、前から行きたかったイタリア
料理の店に入る。思った以上に良い家庭的な店で…ってそれは別の話し。
そこで９０分ほど話しを纏め、劇場へ。劇場の方の話しは、落ち込んで
いた私を説得するのに十分。励ましにもなりました。「作品は逃げない」。
そうです、私は既に２年待っています。私の流した情報により迷惑を掛
けた方も少なからずいましたが、ここは一歩引き、出直す決心をする。

　木根尚登原作、佐藤順一監督の劇場版『ユンカース　カム　ヒア』の
山場は冬。冬の方が効果的ではないか。焦る必要がどこにある。そうは
いうが、この数週間の高揚感は反動としてある。自分の思考を整理し決
着する。待つのだ。

　正直、数名、数十名の方に生情報を出す事で混乱を与えたと思います。
その点は謝ります。申し訳ありません。ただ、私の見通しが甘かったと
は余り思ってません。私なりに一年あまりリサーチした結果だったので
す。予想外はプリント料だけです。いや、一番大事なところですが。

　作品の寿命。それは思った以上に長いものです。最新の物だけを追い
求めていては見失う、小さく大きな感動もあるのです。そういう、やさ
しさに満ちた作品を忘れない様に大切にしたい。『ユンカース』はそん
な作品の一つです。

　まだ終わっていません。私も今回初めて劇場に持ち込みを行ったド素
人です。それでも可能性は見えました。

　もし、『ユンカース』に興味を抱いて、こんなページでも覗いてくれ
ている方、気長に待っていて下さい。良い作品ですから私が失敗しても、
どなたかが必ず上映に成功してくれるでしょう。

　３つの奇蹟のうちの１つくらいは、そんな遠くない時期に起こる。そ
んな気がします。

　それでは、次回情報をお待ち下さい。